脳教育者、一指 李承憲(イルチ イ・スンホン)氏は2007年、「七田式教育」で有名な教育研究家、七田眞(しちだ・まこと)氏と対談を行いました。その対談が収録された月刊誌「ほんとうの時代」(PHP)の2007年12月号の記事の要約を紹介します。
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七田眞氏(以下、「七田」と略す) 私は20代のころから脳の研究を始め、右脳教育が人間の無限の潜在能力を引き出すことを知りました。李先生が脳に関心をもたれたきっかけは何だったのですか?
李承憲氏(以下、「李」と略す) 私自身、幼いころ、学校生活にあまり適応できませんでした。授業中は10分と座っていることができず、先生の声を聞き取る集中力もありませんでした。今でいう「集中力障害」ですね。
七田 その障害はいつまで続いたのですか?
李 高校を卒業するころまでです。高校卒業後のある日、眠っているときに夢の中で虎に襲われました。噛まれて骨が砕ける感覚さえあり、驚いて目を覚ましたのです。そのとき、自分は死んだ、こんな人生もあるのだと考えながら、ぼんやりと三時間も座っていました。このとき、自分の脳が集中しているのを感じました。
七田 脳の中で何らかの変化が起きたのでしょうね。脳の活性化との出会いですね。
李 そのぼんやりと瞑想している間に、自分が呼吸をしているのに気づきました。呼吸は普段、意識しないことですが、そのときは呼吸に集中しました。それからです。本を読む集中力が生まれ、俄然、勉強がしたくなったのは。これをきっかけに、呼吸が脳に及ぼす研究を始めました。その結果、脳がすべてをコントロールしているということに気づき、「脳が呼吸する」という概念に至りました。
七田 呼吸で脳を動かすことができると考えつかれたのは非常にユニークですね。瞑想・呼吸を覚えて習慣化することで、脳が活性化し、集中力も生まれ、学業や運動の成果も上がる。
李 集中力の問題は解決できたのですが、私にはもう一つ、人生についての大きな疑問がありました。人生の目的とはなにか、なぜ自分は地球に生まれてきたかという根本的な疑問です。その答えを得たくて、山にこもり、水以外なにも摂らず、眠らずの過酷な修行をしました。まさに生と死の苦しみの境地に自分を追い込んだとき、「私の体は私ではなく、私のものである」という声を聞いたのです。つまり私の体も心も私が創ってきたものだが、それ自体が私ではない。私は創造者であるとともに観察者であり、私が”自分の人生の主人”だと悟ったのです。
七田 なるほど。日本ではいま若者たちやサラリーマンの問に、うつ病や自殺をする人たちが増えています。そうした人たちは「いまの姿・状況」にとらわれて自分に閉塞感を覚えて絶望しています。自分が”自らの主”であることを悟れれば、好ましい方向に変えることができるのですね。
李 修行中、不思議な体験もしました。HSP(高度感覚認知能力)と呼ばれているものですが、目を閉じていても登山者や遠く離れた湖が見える現象です。脳には計り知れない能力があることを知りました。こうした脳の力を科学的に証明するために韓国脳科学研究院や国際脳教育総合大学院大学を創設しました。その成果を脳教育プログラムとして確立し、世界中で実践しています。
七田 脳教育のトレーニングは誰でも学べるのでしょうか?
李 はい。脳教育プログラムは五段階に分かれており、「BEST5」と呼んでいます。「脳を目覚めさせる」ことから始まり、「脳を柔軟にする」「脳を浄化する」「脳を統合する」といったプロセスを経ます。脳を浄化するとは、自分を否定する情報をクリアにすることです。すると、自分が貴重な存在であることに気づき、心の中にある情熱が息を吹き返してくるんです。最後のステップは、「脳の主になる」ことです。主体的に自分のビジョンと目的のために脳を活用できる状態です。
七田 会社でも自分の能力に確信がもてないという人は、このプログラムで学べば自信を回復して、会社に役立つ創造的な働きができるでしょうね。
李 韓国では、多くの大企業の社員教育にも採用されています。
七田 脳教育は、高齢者の脳の活性化にも役立ちますね。高齢者が脳教育のトレーニングをすれば、長寿の概念がさらに変わるのではないでしょうか。